新たな自分に出会う情報発信誌 VIVO 2012年冬号 第28号

新たな自分に出会う情報発信誌 VIVO 2012年冬号 第28号 page 12/24

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郷土の自然や民俗が年々変貌し、それへの思いが消えがちになっている現在、『岐阜のつたえ話』を読むことによって、郷土をより理解し、愛し、こよなく誇りを持っていただけるものと思い、著作者である岐阜市教育文化....

郷土の自然や民俗が年々変貌し、それへの思いが消えがちになっている現在、『岐阜のつたえ話』を読むことによって、郷土をより理解し、愛し、こよなく誇りを持っていただけるものと思い、著作者である岐阜市教育文化振興事業団のご了承を得て転載させていただきました。『つたえ話』の冊子を購入希望の方は、P20の「情報あらかると」をご覧ください。むかし、長良の雄総に源太という若者がいました。がんじょうな体で力もありましたが、何でも自分の思い通りになると思っているわがまま者でした。ですから、村人からは信用されず、家の者にまでも当てにされなくなっていました。その年、雄総は大こう水に見まわれました。こう水の後、村人たちは、こわれた所を直したり、どろでよごれた家を洗ったりしました。小さな子どもたちも一生けんめい働きました。ところが、源太は、ごみ一つ拾いませんでした。そして、こともあろうに、「腹へった。めしはまんだか」と、とつぜんどなり始めました。あまりしつこくどなるので、ついにおとうは、「働かん者は食えんのや。見ろ、妹のくめでも手伝っとるに。お前もちったあ働け」と、大声でしかりつけました。源太は、「おれは、このうちのあととりやぞ。働かんでも食えるんや。めしや、めしや」と、ますます大声でどなりました。おとうは、もうがまんができなくなりました。「お前は、親の言うことが聞けんのか。いつも、遊び回ったり、ごろごろしてばかりいる。お前にはあいそがつきた。今すぐ、このうちからでていけ」と、おそろしいけんまくで追いたてました。源太は、おとうをののしりながら出ていきました。でも、もう帰る所がありません。源太は泣きながらさまよい歩くばかりでした。ついこの間までは、あれもいや、これもいやとわがままが言えましたが、もうだれも手をさしのべてはくれません。ごはんも作ってくれません。安心してねる所さえなくなりました。とうとう源太は、なにも言わなくなり、当てもなくただとぼとぼと歩き続けました。家を出てからいく月かが過ぎました。源太の着物はやぶれ、頭の毛はのびほうだい、顔はやせおとろえてきました。それでも、目は少しおだやかになっていました。ある日、源太は美しい海岸に立っていました。青い海、白くくだけ散る波、松におおわれた島島は、目をみはるばかりでした。源太は、北の果て松島の美しさに心をうばわれていました。そして、思わずつぶやきました。「おう、この貝は、くめにやりたいなあ」「この景色は、おっかあに見せたいなあ」源太は、ふるさとのことを思い浮かべながら、またとぼとぼと北へ向かって歩きました。やがて、真っ青な海に浮かぶ『金華山』にたどりつきました。源太は金華山に登り、頂上の岩にこしを下ろして絵のような景色をながめました。ときおり海から吹いてくる風が、ふきだす汗をおさめてくれるようでした。源太は、今までとはちがった気持ちになっていました。あどけないくめの笑顔、あたたかいおかあの手、仕事をするおとうの背中が、美しい松島の景色の中に浮かんで一石山文長屋正弘絵森谷連VIVOVIVO 10